半世紀以上、南アルプス市の地に根ざして事業を続け、地元のシェアが7,8割を占める野田ホーム。自身も一級建築士として活躍する3代目の野田年男氏は、「お施主様の想いは、自分の想い」と考え、一本一本の線にその想いを込めて日々住宅創造に奮励します。
地場の工務店×一級建築士事務所、双方の利点を活かして
県内でも珍しい工務店と一級建築士事務所を並立されていらっしゃいますが、特徴や強みはどんなところにありますか?
新築、リフォームを含めほとんどの案件に私が介入していますが、私と同様に弟も一級建築士を取得しており、会長と従業員の1人も二級建築士を持っています。こんなに設計士や建築士が在籍する工務店も珍しいので、そこが特徴かと思います。基本的にプランはなく、自由設計で敷地やお施主様の要望を確認した上でプランを構築していくスタイルですが、20年以上前にいち早く性能に着目して、HPパネルを自社で制作・使用した数値のいい耐震・省エネの家づくりに取り組んでいます。エコ住宅は国で推奨しているため、ハウスメーカーさんなどは数値の競争のようになっていますが、弊社ではHPパネルをリニューアルしつつ、一級建築士事務所を並立している利点を活かした震性、省エネに優れた家になります。また、接道の幅や敷地面積によって制限がある場合もあるので、敷地に対してニーズに合わせるための法規の知識が必要になります。法令に詳しくない会社も多いのですが、一級建築士事務所として法規のプロであるので、建築基準法上の知識を併せ持っているのは、弊社ならではと言えます。設計士にありがちなデザイン重視だけではなく、使い勝手を優先したお客様目線で、工務店と一級建築士事務所の両立を図り、地場の工務店として最高位の建築を作っていけたらいいと考えています。
お施主様のライフスタイルを引き出すことこそ設計士の腕の見せ所
工務店として、また一級建築士事務所として、家づくりで大切にしていることは、どのようなことでしょうか。
まずは、どのくらいお施主様と対話できるかが重要だと捉えています。一級建築士事務所を名乗る設計事務所でもあるので、最初の打ち合わせの段階で希望をしっかりと聞き、自分事に置き換えて、自分が施主だったらどうしたらいいかを考えます。希望を図面などにしていくのは次の段階で、いかに膝を突き合わせて要望を引き出せるかが設計士の腕の見せ所だと思っていますので。ヒアリングの際には、どういう家にしたいか漠然とした会話から始めて、趣味やニーズを聞いて徐々に詰めていくスタイルを取っています。思い描く家を建てるためには何が必要かというアプローチの仕方です。そのため、打ち合わせがスムーズに進むよう、メールなどで事前に図面のやり取りをしてイメージや意見をまとめてもらうといった工夫もしています。
また、木材を自社で輸入し加工することができるので、コストカットに一役買ったり、格式のある和室の対応ができる点も弊社の強みであり、大切にしていきたいことの一つです。昔ながらの和室は真壁の化粧柱を作ることが多く、床の間とその横に違い棚を作ったりするのですが、それらの作業は手間がかかり、綺麗に仕上げるにはそれなりの技術が必要になります。しかし、昨今は依頼自体が減り、和室を作ることができる大工さんも減ってきてしまいました。そのような和室のニーズが出た時すぐ応えられる体制を構成するのも、昔ながらの大工さんとの付き合いがある地場の工務店だからこそ。今後もその技術を守っていきたいと思います。
次世代へ大工の職を受け渡すために、今やるべきこと。
南アルプス市の建設業を営む若手の大工や建築士たちと「若手大工の会」を発足されていますが、想いや活動内容をお教えください。
商工会青年部を元にして5社の工務店が集まったのが始まりです。南アルプス商工会が経営者のために開いた学びの場で、3年間のカリキュラムの中で、経営の基本的なことからノウハウ、戦略などを学べる全国的にも評価されている事業です。その学びをベースに工務店5社が集い、地場の工務店がいかに大手ハウスメーカーさんに対抗していくのかという目的で、スタートしたのが「若手大工の会」です。ハウスメーカーさんへの対抗と共に、高い技術を持った大工さんの高齢化問題を受け、技術の継承を進めていきたいという想いが、5社(6人)にはあります。「若手大工の会」独自の勉強会を開いたり、自社の強みと弱み、取り組みなど情報共有しながら、若い大工がいないことを課題にした活動を行っています。例えば、子どもたちに職業体験の一環として、木材で2階建ての小さな家を創作させたり、餅や菓子蒔きを行う建前の体験をしてもらったり。園児に設計図を描いてもらい、優秀な作品の子どもには図面を基に3Dプリンターで作成した模型をプレゼントしたこともあります。もちろん地域社会に貢献する取り組みも積極的に行い、伊奈ヶ湖のベンチ改修を行ったことも事例の一つとしてあります。人材育成を見据えた私たちの活動を通して、いつか子どもたちが成長して1人でもこの業界に入ってくれたら嬉しいですね。ベテラン大工の素晴らしい知識と技術を、将来を担う若い大工に継承していってほしいと心から願っています。